代表理事月報(2022年6月)
6月は梅雨の季節である。今回は私の思い出話しになりますがお許し頂きたい。
この時期になると思い出す人がいます。
私は、大学卒業後コンピュータ専門商社に入社し、そこから私のIT業界の旅は始まりました。何の志も無く、何も考えず入った会社とIT業界ではあったがその後35年以上、会社は変われども同じ業界で働けたのは、多くの素晴らしい人との出会い、そしていつも損得無しで助けてくれた方々のおかげであり、決して私が優れた能力と経験があったからではありません。
外資系ITのソフトウェア会社にて25年以上アメリカ、カナダの日本法人に勤務しましたが、最初の海外企業はSASインスティチュートという会社でした。SASシステム(ソフトウェア)と呼ばれる会社に運よく入社できましたが、これも自分の意志ではありませんでした。SAS(Static Analytic System)は統計解析の専門ソフトウェアで北米のノースカロライナに本社を構えおり、当時から「働きたい会社」、「女性が働きやすい会社」の上位に毎年入っており1990年代の日本進出直後に入社しました。
当時はSASと言っても誰も分からず、「特殊部隊(SAS)に入ったの?」とか「スカンジナビア航空でなにやるの?」とか言われたが、最もよく言われたのは「サザンオールスターズと何か関係あるの?」「最近青柳が何をやっているのかわからない」と言われていたことを後で知りました。
私は経済学を学んだが比較経済が中心であり統計については皆目知識はなかった。当時の会社は、こんな私を良く採用したものだと感心と、感謝をするばかりです。英語が話せるわけでも無い「私に何ができるのか?」と感じたのは入社したその日でした。同時入社で同じグループのメンバーになった同期は、外資系コンピュータ会社にてAIを研究していたエンジニア、大手銀行の統計部門で金融統計を行っていた人、メーカーで品質管理を経験した人であり年齢はほぼ似通っていた。
結局私だけがSASだけでなく統計も全く理解していないぼんくらでした。入社同日に退職も考えはしましたが、生まれつきの「ケセラセラ」精神でごまかし、ごまかし仕事をしていたら、周りが見かねて、助け舟をいつも出してくれました。難局をこれもごまかしながらどうにかチーム力だけで突破できました。入社して数年しても、やはり統計は全くの門外であり、用語は覚えたがその意味や何のためにあるのかは、分かっていませんでした。
そんな時。SASが外部講師を招聘したセミナーで、後々私の統計の師匠(私が勝手にそう思っているだけだが)となる芳賀 敏郎氏の講演を聞く機会がありました。芳賀先生は、東京理科大教授として統計学の基礎を日本に広め、そして研究し新たな手法を数々を残した偉大な統計学者です。当時の私にはそんな背景もしらず、芳賀教授のSASシステムによる統計解析についての講義を拝聴しました。芳賀先生の講演は失礼な言い方ではありますが学者先生の講演とは違い、ゆっくりと笑顔で簡易な言葉で分かりやすい事例を基にご説明をされ、統計は何故お役に立てるのか?SASを必要とする領域についてお話をされました。
「統計を学ぶためには、コンピュータ言語やSASのような高度で高額なシステムの必要は無く、皆様のパソコンで使えるエクセルで充分体感することはできる。」との説に、販売している会社のものには少し耳が痛い感覚を覚えました。芳賀先生の取組に対して、環境の差別化を作らない一環とした姿勢は、今になるとやっと理解できます。
門前の小僧に芳賀先生から見るに見かねてからなのか、ある日声を掛けて頂き、「青柳さん、統計は学問であるが実社会で使ってもらえないと存在出来ないものです。僕はよく生徒に統計は足で学ぶ学問だとよく言います。コンピュータで統計手法とデータを付け合わせて結果が出ても、足を使わない解釈は何も意味の無い解釈であり、データが派生した現場に出向いて、自分の目で見て、体を動かして体験しなくては、解釈の目線や深みは出ないのです。」
と貴重な言葉を頂き、この言葉は今も自分の努力の源になっています。
その後芳賀先生とは懇意にお付き合い賜り、1995年頃6月にノースカロライナ州ローリー・ダーラムに普子奥様とご一緒にSAS本社を訪問したことをこの季節になると思い出します。
SAS本社はキャンパスと言われており、大学のような環境下で仕事が出来るとても素晴らしい会社です。SASの創設者で統計学者のDr.Goodnightが日本からのお客様を出迎え、芳賀先生に2m近い巨体で近づき日本での感謝の言葉と握手をされ、小柄な普子奥様には跪き握手された事は未だに確かな記憶として残っております。その後芳賀先生の笑顔に少しお役に立てたのではないかと安堵したのを覚えています。
現在データサイエンスというワードを非常に多く目にします。これは、データ分析の重要性の理解が高まり、大学でも多くの講座でデータアナリスト育成の授業が出来ています。専門学部以外でも学ぶことが出来る時代の流れに嬉しく感じております。
今回は私の拙い昔話になり申し訳なく感じながら書いていますが、データサイエンスとしてビッグデータを使い、様々な事象について分析し、解釈を加え説明することで多くの方々にご理解頂ける事になります。統計とビッグデータ分析は違う領域であるという人もいますが、その議論についてはまた改めてご案内します。
入札総研のミッションに「データの科学化」があります。これは入札のビッグデータを使い今後様々な視点で、仮設検証のファクトデータとして、多くの方々のお役に立てる入札を知見者と共に情報提供することが私たちの存在意義の一つです。
最後に時代は変われども芳賀先生の魂は未だに残り続け私たちの中に残っております。
「データは足を使って解釈しなくてはいけないよ。現場に活路はあるのだから」
尚、芳賀先生のご子息である芳賀 耕一様のご協力にて芳賀先生の記録集を下記から閲覧できます。
データ分析に悩んだり、迷ったら道標があるかもしれません。
http://haga.sakura.ne.jp/
今月はここまで。
2022年6月
代表理事 青柳恭弘