代表理事月報(2022年7月)
7月の和風月名は文月と書いて“ふづき、ふみづき“と読みます。別名には稲の穂が含む月であることから「含み月」「穂含み月」の意であるとする説もあります。日本語とは実に複雑で文字面だけでの解釈は非常に難しく、背景、起源、文化等が絡み合いその言葉の意味を形成しています。
入札において近年では建設、土木等の公共工事だけでなく、役務(公的な仕事。また、他の人のために行う労働。)におけるサービス提供も入札の多様性、公共サービスの広がりからも増えています。役務には一般的には清掃、保守、システム開発、コンサルティングなどのサービスを指すことが多いようです。
私は35年以上IT業界に従事してその大半は外資系企業の日本法人で過ごしました。ITにおけるシステム関連の契約には「請負」「準委任」と大まかに2つの契約形態があります。
請負契約とは、請負人が仕事を完成させる約束をし、請負人の仕事の完成に対し、注文者がそれに対して報酬を支払うという契約を意味します(民法632条)。
一方、準委任契約とは、委託者が受託者に対し、ある事務作業自体を委託するという契約で、委任契約は、法律行為の委託であり、準委任契約は法律行為以外の事務の委託に当たります。準委任契約においては、ベンダーは、「善良な管理者の注意」という水準で委託された業務を遂行する義務を負います(民法644条)。他方、受託者には仕事完成義務そのものはないため、原則として瑕疵担保責任をありません。システム開発には、一般的に要件定義は準委任契約であることが多く、設計のフェーズについては請負、準委任の両方があり、クライアント(発注者)がどちらの契約形態にするかを決めることが多々あります。
システム開発は無形物の製造であり、そのデザインについては発注者サイドからの依頼事項を受けて受注者であるベンダーが設計、開発を行います。但し、設計図に関して有形物と違い目に見えるものではないので両者の思惑と意向により齟齬が出る場合があり、近年においては両者の対立構造にまで発展し裁判による解決に委ねる事例も多々出てきており、発注者と受注者のどちらに問題があるのかは、一軸では無く複雑に絡み合う事情によりどちらに問題があるかは千差万別な判断がもたらされています。
ある裁判2審判決において、「ベンダーは、システム開発技術等に精通しているとしても、システム開発の対象となるユーザーの業務内容等に必ずしも精通しているものではない。(中略)その意味では、(中略)ベンダーにシステム開発技術等に関する説明責任が存在するとともに、ユーザーにもシステム開発の対象とされる業務の分析とベンダーの説明を踏まえ、システム開発について自らリスク分析することが求められるものというべきである」(1)という判断が下されたこともあります。
少しシステムの話が長くなりましたが、主従関係にあたる発注者、受注者の関係性、立場、無言の圧力、従属の暗黙の提示等々、会社の売上、利益という経済的な背景が絶対的な受注者とそれに対して投資に対する正当性、妥当性をステークホルダーに対し説明責任がある発注者には一筋縄ではいかない事由が埋没されています。一度掛け違ったボタンを掛け直すことは非常に難しいです。後から考察するとそこに存在した様々な人の資質、組織との関係性を鑑みると瞬間的な事では語れないことが多々あります。
入札においても官民との良好な関係性と思いやり、プロフェッショナルリズムにおける観点から様々な検証と考察が成されており、日々公平と適正に向けて英知と挑戦が続いています。入札総合研究所にて入札の「光と影」について調査・研究を行うことで皆様へ有意義な情報をお伝えできるよう精進する所存です。
今月はここまで。
(1)システム開発失敗を巡る2つの裁判、ユーザーとベンダーの「契約書」に疑問符 澁谷裕以 ITコーディネータ協会 会長 2021.11.05 日経クロステックより抜粋
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01229/110100037/
2022年7月
代表理事 青柳恭弘