代表理事月報(2022年9月)

会計において多くの日本企業の9月は年度の折り返しであり、当年度の売上・利益予想、そして来年度に向けた計画策定の時期となる。

入札総研において新たな活動として、「入札散歩」なる企画を始める予定である。この企画は、人々と密接な関係にある入札における、建造物、道路、橋、そして美術館等々多岐にわたり入札を通して、購買されて納品及び維持・運用されている“物“及び”サービス“が、どのような状況であるのかを、「散歩」を通してお伝えする企画である。
つまり自分の住む周りには多くの入札によってできた建造物があり、散歩をしながらご案内することで、入札を身近にそしてより活用して頂くことを趣旨に、情報提供できれば幸いである。

今年度の上期は激動であり、今後5年、10年で大きく変わっていく変化を促す年となる予感がする。振り返って2022年を起点に更なる変化を誘導する出来事がマグマのごとく起きていると感じる。

夏目漱石の名文に「私の個人主義」がある。漱石というと「坊ちゃん」「草枕」「こころ」など幅の広い文体で、多くの名著を残した明治、大正の文豪であり、教科書にも取り上げられ、小学生から多くの年代に読まれている作家である。漱石は名誉や地位と反目し多くの逸話も残されおり、講演、エッセイは、今も通じる眼力の鋭さと視座の高さを感じる。

「私の個人主義」から私の教訓になっている一文をご紹介しますのでご一読願いたい。

(夏目漱石「私の個人主義」より抜粋)
今までの論旨をかい摘まんでみると、第一に自己の個性の発展を仕遂げようと思うならば、同時に他人の個性も尊重しなければならないという事。第二に自己の所有している権力を使用しようと思うならば、それに附随している義務というものを心得なければならないという事。第三に自己の金力を示そうと願うなら、それに伴ともなう責任を重おもんじなければならないという事。つまりこの三カ条に帰着するのであります。

 これをほかの言葉で言い直すと、いやしくも倫理的に、ある程度の修養を積んだ人でなければ、個性を発展する価値もなし、権力を使う価値もなし、また金力を使う価値もないという事になるのです。

 それをもう一遍ぺん云い換かえると、この三者を自由に享け楽しむためには、その三つのものの背後にあるべき人格の支配を受ける必要が起って来るというのです。もし人格のないものがむやみに個性を発展しようとすると、他を妨害する、権力を用いようとすると、濫用に流れる、金力を使おうとすれば、社会の腐敗をもたらす。ずいぶん危険な現象を呈するに至るのです。そうしてこの三つのものは、あなたがたが将来において最も接近しやすいものであるから、あなたがたはどうしても人格のある立派な人間になっておかなくてはいけないだろうと思います。

感想は、皆様個人にお任せしますが、入札を調査・研究すると必ずこの点にぶつかり、大きな壁になっていくことを感じる。入札は国づくり。まちづくりのために使われるものであり、一部の既得権者への集中を排除し成り立つ制度とも云われる。
より良い制度を成すためには、発注者、受注者だけでなく、多くの目が見て感じることが重要であり、時々に精査し「反省と検証」を繰り返すことで、熟していくものと確信している。

漱石の生きた時代は日本が近代化に向けた号令にて舵を取っていた時代で、その後の歴史が語るように生活や経済は右肩上がりではあったが、精神構造の核となる人格は転げ落ちる坂道へと向かっていたとも考えられる。

自戒の念もあり「入札散歩」にて一番身近なところにあるものをご紹介することで、入札に目を向けて頂ければと思っている。

皆様から是非とも気になる入札案件があれば教えて頂ければ「散歩」をしながらご紹介しますので是非とも「お問い合わせ」からご案内お街している次第である。

今月はここまで

2022年9月

代表理事 青柳恭弘